◎グレオニー愛情ルート途中
◎レハ㌧へたれ気味。あと印愛高杉。
◎一人称僕-喋ります
「まだ握力が足りないでしょうから、両手で持って下さいね。そうそう」
そう言いながら、グレオニーが隣で握り方を僕に見せる。
とはいえ……そもそも手の大きさからして違うのだから何だか違うようにも見える。
訓練場には数人の衛士の姿。
彼らはあちらこちらを歩き回りながら訓練用の丸太やら何やらを運び出している。
薄曇りの訓練場には、時折人々の歓談するようなざわめきが流れる。
今日は十日。穏やかな休日だ。
隅に固まっていた衛士が、グレオニーに声をかけた。
「じゃー、俺ら明日の準備終わったし、そろそろ上がるわー」
「おー、お疲れー」
「お前もあんま寵愛者様に無理させんなよー」
「ムリしてなーい」
言葉の応酬の最後に、僕も参加をする。
衛士達は笑い声を残すと手をひらひらと振り、宿舎の方へ消えていった。
「すっかり馴染まれましたね」
言いながら、グレオニーが苦笑する。
「そうかな。皆が優しくしてくれるから」
足繁く訓練場に通う姿に親近感を覚えられたのか、以前よりもずっと、僕に向けられる視線は柔らかくなっていた。
最近では来る事を見越されているのか、飲み物が用意されている時すらある。
今度、サニャに頼んで、何かお菓子を持ってこようと思う。
「でも大丈夫?ごめんね、今日休日なんでしょ?」
「いえ、休日って言っても取り立ててしなきゃいけないものもないですから。
レハト様こそ、お休みにならなくて良いんですか?」
僕は首を振る。
部屋で休んでいても、結局彼の事が気になって顔を出してしまうんだ。
再び、剣を握りなおして打ち込みの型を確認する。
件の怪我があってから、グレオニーは僕と直接剣を向かい合わせない。
一度頼んでみたのだけど、物凄い勢いで拒否された。
隣からグレオニーが打ち込んだ後の足の位置を直す。
こう言っては何なのだけど、彼はこういう方が向いてるのじゃないかとも思う。
何度か丸太相手の打ち込みを繰り返した時、剣にぽつりと水滴が落ちた。
空を見れば、……見事な暗雲。
グレオニーを見ると、同じ事を考えていたらしい。
「……あー、はい。多分、俺のせいです……」
ひとつ、ふたつと落ちた水滴は次第に数を増やし、瞬く間に訓練場は雨音ばかりになってしまった。
僕らは急いで剣を片付けると、脇の渡り廊下へ避難する。
雨脚はどんどん激しくなっているようだ。
もう今日は止まないかも知れない。
何をするでもなく、雨粒を二人で眺める。
ぱたぱたと渡り廊下の隅から水の落ちる音がした。
「レハト様は、」
グレオニーがぽつりと口を開いた。
「どうして、剣の訓練をされるんですか?」
唐突な問いに、僕は彼の顔を見る。
顔が逸らされる予想は外れ、彼の目は真っ直ぐ、僕の目を見ていた。
「もし……剣術の嗜みが必要な状況なのなら、と思っ」
言いかけた彼の言葉をさえぎるように、考えるより早く、僕の口が勝手に動いていた。
会いたいから。貴方に。
自分の口から出てしまった言葉に気付いた時には、もう僕の顔は真っ赤だったと思う。
「ちがう、ごめん。そういう、いみじゃなかったよね」
慌てて付け足した上擦った声が、余計に僕の顔を赤くさせる。
頭が混乱してしまって、言葉をうまく繋げられない。
頬を隠すように両手で覆って視線を雨粒に戻した。
鼓動が少しおさまり、恐る恐るグレオニーを見る。
彼の視線は想像よりも真剣に、僕に注がれていた。
「あ……」
一言、にもならない声を漏らすと、今度は彼が弾かれたように目を逸らした。
……口元が緩んでいるのが分かる。
「いや、あの……。俺も……嬉しいです、お会い出来るのが」
言われて、収まりかけた動悸がまた早くなる。
僕はまた顔が熱くなっていくのを感じながら、グレオニーを見上げた。
「あの。あのね」
これ以上、今何が言えるんだろう。
言いたい事なら山ほど、多分あるんだけど、それを伝えられる術が分からない。
呼びかけられたグレオニーが首を傾げて僕を見ている。
「……また、来るから」
それだけ伝えるのが精一杯だった。
グレオニーが笑いながら頷いた。
中日じゃないからね。中日じゃないもんね。