くっ…とうとうこっちにまでトッズ憎悪が進出してきやがった…!
早く逃げろ!ここはおれg(ry
ということで、憎悪トッズさんの威力すげえです。
想定
◎トッズ:憎悪A/護衛済
◎レハト:一人称私/女性/王位継承済
王位継承をして、随分時間が経ってからのお話。レハト視点。
謁見を終え、小部屋へ書類を持ち込む。
王位を継承してから幾年が過ぎただろうか。
私が継承をしてから数年後、リリアノが毒殺された事を聞いた。
いずれ私も其処に向かうのだろうか。
思わず出てきたものは、哀惜でも何でもない、自らの事だった。
人払いをした小部屋には静寂が落ちる。
物音がしないだけの静寂ではあるが。
「トッズ」
私はもう幾度呼んだか分からない名を呼ぶ。
微かに空気が揺れる気配がする。
「トッズ」
未だ姿を現さない気配へ、再度声を掛ける。
やがて扉の陰から、まるで浮き出るように、彼の姿が現れた。
「はいはい、聞こえてますよ。王陛下」
頭をかきながら彼は私の元へ寄り、仰々しく傅いてみせた。
「本日もお美しくていらっしゃる」
上げた顔に浮かぶのは、口の端だけに浮かんだ笑み。
あの瞳に親しげな光を見たのは、もういつの事だっただろうか。
それはまだ私も幼く、そして彼自身もまた、若かった頃の話だ。
「挨拶は良い。この貴族の周辺を洗って欲しい」
私は置かれた書類から、一枚紙を抜き出す。
「今はまだ、さして気にするような噂にはなっていない。
けれど私の例がある限り、二人目三人目の寵愛者を用意しようと考える馬鹿者は居る筈だ」
トッズは私の手から紙片を受け取り、内容に目を通している。
一通り読み終え、私に目を向けた。
「…まあ、すっかり王様らしくなられて。また俺も密偵稼業に戻るとは、思いもよりませんでしたけど」
「嫌なら去って構わないと、何度も伝えている。元よりお前の事を知っているのも、リリアノとローニカだけだ。
既に二人とも、この世に居ない」
私はトッズから紙を受け取り、小さな硝子皿の上で燃やす。
「まさか。そんな不義理な事を致すとお思いなんですか。俺の命をお助け下さったのは、レハト様でしょ」
軽い笑い声。
不思議と声だけは出会った頃と変わりもしない。
あれから過ぎた、短くはない年月。
変わってしまったのは、私だけなのかも知れない。
「それだけだ。呼びつけてすまなかった。もう下がって良い」
伏せた顔に、影が落ちる。
見上げた先にあるのは、私を見下ろすトッズの顔。
私を見透かすような双眸も、随分見慣れてしまった。
あの日々も、私はずっと彼を見上げていたのだ。
外の匂いを孕んだ彼の周囲の空気。
そこに広がる、自由。
憧れ続けていた。
焦がれ続けていた。
やがて焦がれ落ちたのが、私だけだったのだとしても。
「─黙ってりゃ、まだ昔の面影もあるんだがな」
軽い口付けの後で、トッズが口の端だけ上げる。
「クソ忌々しいですよ。お美しい、王陛下」
それだけ言うと、トッズは部屋を後にした。
遠ざかる足音がふと消える。
残されたのは、本物の静寂だ。
諦めたのは、いつだっただろう。
一度失ったものは、もう戻らないのだと。
愛していると呟く言葉すら、彼はいとも簡単に往なしてみせる。
いつも通りの、かつては無かった、軽薄な笑みを浮かべて。
戻らないのなら、進むしか無いではないか。
傍に在れば良い。
例えそれが愛であれ、憎しみであれ。