黄金の子守|一次SS

 かしずくことはさして苦ではないの。それなりに扱い方も覚えてきたし。まだ知らないことも大層多いけれど、それはこれから覚えていけば良いことだわ。

 肌着は生成り。淡く漂うミルクの匂い。毛はまだ揃っていないようで、笑い声は庭先を飛び回る小鳥のよう。彼の目にうつる天井には差し込んだ陽が揺れている。もっとも、その色は私には分からないのだけど。

 あら、泣き出しちゃった。私の子はこうは泣かなかったけど、やはり少し違うのね。鼻先でつついてもご機嫌はなおらない。今度は何がほしいの王子様。そんなに泣かないで、私の王様も起きてきちゃうわ。あなたにお乳をやるだけで精一杯みたいなんだもの。

 舌でなだめれば少しは気が済んだようで、今度は私の鼻先を小さな手のひらで叩きはじめた。……もう少し加減を覚えてほしいけれど、教えられるのはもう少し先ね。大丈夫よ、そういた、……痛いわね、やっぱり少しくらいは。

  王子様、はやく育つのよ。私の子らも楽しみにしているの。あなたは何が好きかしら。庭先の柔らかい地面を教えてあげるわ。色々と埋めるのにすごく都合が良 いの。ボールのうまい投げ方も、はやい穴の掘り方も。ああ、あと、見つかりにくい隠れ場所のことも。毎日遊びに来てくれる友人たちのことも教えてあげる。 私、まだ3回しか見たことないけれど、雪もとてもきれいだったわ。

 それから、それからたくさんのこと。
 だからはやく、私の名を呼べるようになってね。
 あなたの小鳥のような声で呼ばれるの、私楽しみにしてるのよ。

即興小説トレーニング:「私のペン」
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