手は届くのに心は遠かった|一次SS

 手は届くのに心は遠かった。
 
 手を伸ばしてくれているのはあなただし、もし僕のこれが心と呼ぶようなものであれば、という話だけど。
僕を熱心に読み耽るあなたの目元はとても懐かしいもので、僕を支える手はかつて僕に触れていた手に比べればずいぶん細くてなめらかだ。すっかり擦り切れて古びた僕を気遣うようにゆっくりと捲っていることも分かる。

 そう、僕はあなたが人であることも知っているし、僕を覗き込んでいるのが”顔”だということも、支えているのが”手”だということも分かるようになったんだ。そしてその”顔”にあるのが”目”で、何やら反射しているものが”涙”だということも分かる。

 他にもよく知っているものがある。(月)と(木)、それにあなたの名。ちょうど今あなたが覗き込んでいるあたりにも書いてあるはずだ。何しろ彼が僕を手に取るのは決まって(月)と(木)だったから。彼は(月)と(木)の帰り道のことを、とてもたくさん僕に残していった。
 
 彼が僕を手に取らなくなってからも、僕は何度も何度も(月)と(木)とあなたの名を繰り返していたよ。あなたが僕を手にとった時にも、僕にはあなたがあなたであることがすぐに分かった。彼はまるで魔法使いだ。僕にあなたをしたためて、あなたを写していくことが出来たのだから。

 僕にあるこれが僕のものかは分からないし、僕が僕のものなのかも分からない。でも忘れたくないと彼が僕に綴っていった物事は確かに今も僕が持っている。そして思い出したいとあながた僕に触れていることも、僕には分かる。彼が生み出した僕は、かつての彼でもある。

 今なお僕の中にある彼は瑞々しいままで、あなたを見つめているんだ。喜びに跳ねた筆跡の中に、落とした涙の跡に、書きあぐねて塗りつぶされた文字に。
 どうか、いつか僕を見つけてください。
診断メーカーより
あいぼんさんには「手は届くのに心は遠かった」で始まり、「いつか僕を見つけてください」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以内でお願いします。
#書き出しと終わり
https://shindanmaker.com/801664
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